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フレキシブルフラットケーブル入門|FPCケーブルとの違いや種類を解説

電子機器の小型化が進む現代において、配線の選択は製品開発の成否を分ける重要な要素となっています。特にフレキシブルフラットケーブルは、その特性から多くの開発現場で注目を集めているものの、適切な選定基準や用途については、体系的な理解が必要とされています。
そこで本記事では、フレキシブルフラットケーブルについて、基礎知識から利用シーンなどを、体系的に解説します。フレキシブルフラットケーブルの基礎知識の把握にお役立ていただければ幸いです。
フレキシブルフラットケーブルとは
フレキシブルフラットケーブルは、薄く柔軟性に優れたフラット形状の配線材です。機器内部の狭いスペースにもしなやかに収まり、可動部との接続に適しています。
複数の導体を並行に配置し、上下から絶縁フィルムで挟み込む構造で、軽量化と低コスト化を両立できる点が大きな特長です。
同軸ケーブルのような外部シールドはありませんが、複数の信号ラインを整然とまとめられるため、ノートパソコンやプリンターなどで幅広く採用されています。
大規模生産の現場でも扱いやすく、多様な機器の省スペース化に貢献するケーブルとして重宝されています。
フレキシブルフラットケーブルの種類

フレキシブルフラットケーブルには、使用環境や用途に応じて、いくつかの種類が存在します。
代表的な種類として以下が挙げられます。
- ハロゲンフリーフレキシブルフラットケーブル
- 金メッキフレキシブルフラットケーブル
- 金メッキシールドフレキシブルフラットケーブル
それぞれの特徴を見ていきましょう。
ハロゲンフリーフレキシブルフラットケーブル
ハロゲンフリーフレキシブルフラットケーブルは、有害ガスの発生を抑える材料で作られた環境配慮型のケーブルです。
従来のフレキシブルフラットケーブルには塩素や臭素などのハロゲン元素が含まれている場合があり、焼却時などに有毒ガスが発生する懸念がありました。
これに対して、ハロゲンフリータイプでは、燃焼時に有害物質が出にくい素材を使用することでリスクを低減しています。
環境規制が厳しい地域や、安全面を重視する製品に適した選択肢として注目されています。
リサイクル性や企業イメージの向上を図りたい場合にも、ハロゲンフリーフレキシブルフラットケーブルが有効です。
金メッキフレキシブルフラットケーブル
金メッキフレキシブルフラットケーブルは、接点部分を金でメッキすることで接触抵抗を低減し、伝送品質を安定させるケーブルです。
金は酸化や腐食に強い金属なので、長期間にわたって抵抗値がほとんど変化しない点が大きなメリットといえます。
医療機器や精密機器などでは、微弱な信号でも正確にやり取りしたい場面が多く、そのような用途で重宝されます。
ただしメッキ工程の分だけ製造コストが高まりやすいため、予算との兼ね合いが必要です。
それでも高品質な接続が求められる用途には、金メッキフレキシブルフラットケーブルが適しているといえるでしょう。
金メッキシールドフレキシブルフラットケーブル
金メッキシールドフレキシブルフラットケーブルは、金メッキの接触信頼性と、シールドによる外部ノイズ対策を両立させた高性能タイプです。
映像信号や高速データを扱う装置では、電磁波干渉が画質や通信精度の低下を引き起こしやすいです。そのため、外部シールドによって不要なノイズの侵入を抑えつつ、接点を金メッキで保護することで、長期的に安定した伝送を実現できます。
一般的なフレキシブルフラットケーブルより単価は高めですが、ケーブルの交換やトラブルを減らしたい現場では、総合的なコストメリットが得られる可能性があります。高精度を求める分野やノイズに敏感な環境では、金メッキシールドフレキシブルフラットケーブルの導入が効果的です。
フレキシブルフラットケーブルとFPCケーブルとの違い
フレキシブルフラットケーブルとよく似たケーブルに、FPCケーブルがあります。
FPCとは「Flexible Printed Circuits」の略称で、日本語では「フレキシブルプリント基板」と呼ばれます。どちらも薄くて柔軟性のあるケーブルですが、構造や特性には違いがあります。
ここでは、フレキシブルフラットケーブルとFPCケーブルの違いを詳しく見ていきましょう。
フレキシブルフラットケーブル | FPCケーブル | |
構造 | 複数の導体を一定間隔で並べ、絶縁フィルムで挟む | ポリイミド基板に銅箔パターンを形成 |
特徴 | シンプルな構造、コストが低い | カーブや蛇行を含む複雑な形状の回路設計が可能 |
用途 | シンプルな信号配線が求められる機器向け | 小型化や高密度実装が必要な機器向け |
メリット | 製造コストが低い、コネクタ接続が簡単 | 回路設計の自由度が高い、高密度実装が可能 |
デメリット | 配線の自由度が低い | 製造コストが高い、専門的な知識・設備が必要 |
製造工程 | 導体を並べ絶縁フィルムで圧着、簡単な工程で短いリードタイム | 銅箔を基板に貼り付けエッチングで加工、カバーレイで保護などの複数工程 |
生産効率 | 大量生産に向いている | 工数が多く製造に時間がかかる |
特徴による違い
フレキシブルフラットケーブルは、複数の導体を一定間隔で並べ、それを絶縁フィルムで挟んだ構造が基本です。
一方のFPCケーブルは、ポリイミドなどの薄い基板に銅箔パターンを形成し、必要な箇所を自由に設計できます。
そのためFPCは、カーブや蛇行を含めた複雑な形状の回路設計が可能です。ただし、シンプルな信号配線で十分な場合は、低コストで大量生産に向くフレキシブルフラットケーブルが選ばれやすいです。
小型化や多層配線が重要な機器にはFPCが、シンプルな配線にはフレキシブルフラットケーブルが向いています。
メリットとデメリット
フレキシブルフラットケーブルのメリットは、構造が単純なため、比較的安価に製造できることです。また、一定間隔で導体が並んでいるため、コネクタとの接続が簡単です。
デメリットとしては、FPCケーブルに比べて、配線の自由度が低いことが挙げられます。
一方、FPCケーブルのメリットは、回路設計の自由度が高いことです。細かい配線や、複雑な回路を形成できるため、高密度実装が求められる用途に適しています。
デメリットは、フレキシブルフラットケーブルに比べて、製造コストが高くなる傾向があります。また、設計や製造には、専門的な知識や設備が必要です。
製造工程の違い
フレキシブルフラットケーブルは、導体を並べて絶縁フィルムで圧着し、その両端にコネクタ接点を加工する工程が中心です。
単純な作業であるため、大量生産に向き、短いリードタイムで納品できる点が強みです。
FPCケーブルは、まず銅箔を基板に貼り付け、パターンをエッチングして不要な部分を除去する工程が必要です。
さらに表面をカバーレイや絶縁層で保護するなど、複数の工程が加わります。製造設備や工数が多くなるため、コスト面でフレキシブルフラットケーブルよりもハードルが上がるのが一般的です。
フレキシブルフラットケーブルの用途

フレキシブルフラットケーブルは、ノートパソコンの液晶ディスプレイと基板間の接続や、プリンター内の可動部配線などに幅広く活用されています。狭い空間に沿って這わせる形状がとりやすく、必要な信号ラインを並行に配置できるため、組み立て性が高い点が大きな魅力です。
また、自動車の計器類や各種センサーの配線などでも採用が増えており、薄型テレビの基板間接続などでも多用されます。
金メッキやシールドを組み合わせることで、ノイズ耐性や接触安定性を高めることができ、多くの分野で信頼を得ているケーブルです。生産性やコスト、スペース効率の観点から、今後も多様な電子機器で注目が集まる存在といえます。
まとめ
薄型で柔軟性に優れたフレキシブルフラットケーブルは、さまざまな電子機器の内部接続に用いられています。導体を並行に配置し絶縁フィルムで挟む構造によって、生産効率を高めつつコストを抑えられる点も特長です。
また、ハロゲンフリーや金メッキなど、多様な仕様が選べるので、環境配慮や長期的な信頼性を重視する場面にも対応できます。
今後はスマートフォンやウェアラブル端末などの小型モバイル機器分野、そして自動運転技術の発展に伴う車載機器分野での需要増加が見込まれるでしょう。